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夢を見るための家!?

はじめて聞いたときには驚きましたが、実際に「夢を見るための家」が存在していました。
この「夢の家」は新潟県の越後妻有6市町村で開催される「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の一環として、第一回目(2000年)のために旧ユーゴスラビアのアーティスト、マリーナ・アブラモヴィッチさんがプロデュースした宿泊可能な「作品」です。この家に泊まった人々が見た夢は将来出版され、作品を完成していくというロマンチックなプロジェクトだそうです。
里山にある100年前の旧家を改装し、伝統的な内装を生かしながらも、夢を見るためのさまざまな工夫と演出が施されています。以下は作品に体験宿泊されたSさん(女性)のレポートです。(2004年7月 写真もSさん撮影)


☆夢の家レポート 

新潟県十日町市松之山 上湯集落

北越急行ほくほく線まつだいの駅からバスに乗って、終点の松之山温泉郷で降りました。 周りは山で小さな温泉旅館が軒を並べています。
案内板などもなく、ちょっと途方にくれましたが、予約時に役場で教えてもらった夢の家に電話し道を確認。山道を20分くらい歩くと聞きましたが、 晴れていましたし、景色もよさそうなので歩くことにしました。

平日のせいか人気が少ない温泉街のはずれの源泉を過ぎると、きつい坂道になります。せみしぐれの中をのぼっていくと、民家もまばらになってきました。 みわたすかぎり緑です。しかも深いくらいの緑。山の向こうでは雨が降っているらしく、ここも山の方は霧がかかったようになっています。 

苔むした神社や、ちょっとした流水、 深い緑、そして棚田と呼ばれる柔らかい曲線の田んぼが田舎らしくて、すぐに歩き去ってしまうのがもったいないくらい。 いつのまにか無言になって、景色を目に焼き付けながら歩いていました。外国人アーティストの作品があるような雰囲気はどこにもありません。

何回か坂を登って、カーブを曲がったところで、奥から ご婦人が迎えに来てくれました。とてもやさしそうな人です。夢の家はボランティアの人たちが管理しているそうです。近道だからとあぜ道を通って、 少し奥まったところにある、古い民家に案内してくれました。 敷地内には小さな菜園や金魚のいる池がありました。 これが、夢の家でした。

100年前の民家を改装した夢の家では会話禁止

古い民家を、できるだけそのまま使っているかんじで、独特の風情がありました。木の梁や柱、廊下なども古木の風格を見せ、その濃い色は落ち着いていて、経年を感じさせるものでした。
台所にはいろりもあります。 窓を開けて聞こえてくるのは、水が流れる音、風の音、そしてセミや蛙の声 だけです。この静けさが何よりも贅沢な感じがしました。

1階にあるのはメインの「説明のための部屋」、「展示のための部屋」、「着替えの部屋」、「台所」、そして「清めの部屋(お風呂)」で、二階に夢を見る部屋が四室あります。管理の方が一通り案内してくれた後は、庭からきゅうりをもいできてくれました。 もぎたてのきゅうりはとてもみずみずしくておいしくいただきました。 

説明のための部屋の中央の大きな座卓の上には、磁石の上に水の入ったコップが4列×6列、合計24個並べられています。これもアーティストのコンセプトが表現されていて、この家の大きさに合わせて配置されているのだそうです。毎日、管理の方が地元の井戸水を汲んでくるそうです。 自分の家から持ってきた浄水と飲み比べてみたのですが、 やはりこちらのお水の方がまろやかでおいしく感じました。 余計なものが何もなくて、ほのかに甘味すらあるように思えました。自然の水と磁石の磁気が不思議な力を発揮しているようです。

テーブルの上には夢の家の利用ルールが書かれたファイルとCDプレーヤーによる音声マニュアルが置いてあります。これからの一泊はこの手順どおりに進めなくてはなりません。「話してはいけない」「禁酒禁煙」「みだらな行為の禁止」「風呂では石鹸を使うな」など、すべてが夢を見るための決まりごとです。

悪夢に尿を振りまけ!

展示のための部屋には宿泊者の夢が書かれた本が数冊展示され、白壁にはマリーナ・アブラモヴィッチさんからの夢を見るための指示が赤い文字で殴り書きされています。"Mix fresh milk from the breast with fresh milk from the sperm , drink on earthquake nights"(胸からの新鮮なミルクと精液からの新鮮なミルクを混ぜて、地震の夜に飲め)"Fresh morning urine sprinkle over nightmare dreams"(悪夢に新鮮な朝の尿を振りまけ)など、意味深なメッセージが並びます。

台所には黒いダイアルの懐かしい電話がありますが使えませんでした。 なんと、テレパシーを使え、と英語で壁に書いてあります。 
食事は自炊もできるそうですが、おいしいと聞いていたので頼んでみました。 小さな正方形のお膳に、小さな小鉢や小皿が乗った日本風なお料理でした。 囲炉裏の周りで、静かに食事をいただきました。昔の日本はこのようなかんじだったのかもしれないと思い、なんだか厳かな気持ちになりました。 

ベッドは「死と再生」のための『棺』!

夜は宿泊者だけになってしまいます。説明のCDを20分くらい聞いて、 銅製の2つのお風呂に順番に入りました。片方はミントのような茎つきの葉を大量に入れて入るもので、贅沢なくらいにいい香りがしました。 清めのお風呂らしいですが、なるほどというかんじです。 

お風呂を上がると熱くなったので、浴衣で外に出てみると、満点の星空です。 さらに星が動いている?と思ってみてみると、大きな蛍でした。 私の住んでいるところでは、こんなにたくさんの星も蛍も見ることができませんでしたから、ちょっと感動してしばらく見とれてしまいました。 

そしてメインの夢を見る準備です。カラフルな着ぐるみのような服を着て、12箇所あるポケットに、強力な磁石を入れて寝ます。 中は専用の下着のような白い薄い服を着て、その上に着ぐるみでした。 もこもこしていて、なんだかかわいらしいかんじでした。 この磁石、身体のコリにも効きそうだなと思ったりしました。 

赤・青・紫・緑の中から1部屋を選んで、棺おけのような板敷きのベッドに入って 天然石(水晶?)の枕で眠ります。まるでユング心理学の「死と再生」を思わせる演出です。もこもこスーツが柔らかいので、 身体は痛くなりませんでした。

赤の部屋は激しい夕焼けのようでした。 NYかどこかで、倉庫で夕焼けを再現して、ひたすら見るというバーがあったくらいですから、きっとリラックスできるのだろうと思いました。 青も、濃い色でキレイでした。精神的なものを感じさせるかんじで、よく作家の方が好まれるのだと、管理の方が言っていました。 紫の部屋は、ちょっとほのかで素朴です。隣に古い農具の部屋があって、のぞくこともできるようでした。精神を高めるそうです。 私は緑の部屋を使いました。コミュニケーションによいそうです。 
携帯で目覚ましをかけてから寝ました。

無念!夢を見られず!

いくつか夢を見た気がするのですが、どれも忘れてしまいました。 覚えている人と忘れてしまう人は、半分くらいの比率だそうです。 仕方がないので、ノートに夢にまつわることを書いておきました。 他の人の文を読んでも、半々なかんじでした。

朝、地元のパンと牛乳をいただいていると、近くに住むという管理の方がいらっしゃって、お話を聞くことができました。 寝心地がいいのか、 チェックアウトの時間まで寝てしまい、管理人さんに起こされる人もいるのだそうです。 管理の方は何人かいらっしゃるようでしたが、みなさんきちんと真剣にとりくんでらっしゃるようで、いろいろと工夫されているようでした。 

ここは全てが夢を見ることを中心にしてできているので、 銅製のお風呂とか、カラフルな寝巻きとか、ちょっと変わったかんじがするかもしれませんが、静かな古い日本の家でのゆっくりした時間は、とても贅沢なものに思えました。 昔は皆、こんなかんじでゆったり過ごしていたのでしょうか。 
今回は夢を見られませんでしたが、また次の機会には本格的な夢を見て、がんばって解釈してみたいと思いました。


夢の家webサイト

http://www.echigo-tsumari.jp/art/320.html

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